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奈良地方裁判所 平成9年(行ウ)17号 判決 1998年12月02日

①事件

原告

畠中孝

外二名

被告

杉村俊明

外四名

被告ら参加人

奈良県知事

柿本善也

右被告五名及び被告ら参加人訴訟代理人弁護士

川﨑祥記

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは奈良県に対し、各金二〇万円及びこれに対する被告杉村、同松宮、同村上及び同亀井については平成九年九月四日から、被告中辻については同月五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、奈良県の住民である原告らが、平成八年八月二九日から同年九月七日までの一〇日間の奈良県教職員中国教育事情視察派遣(以下「本件派遣」という)の旅費等が奈良県の公金から支出されたのは違法であると主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、奈良県に代位して本件派遣の参加者である被告らに対し、損害賠償を求めている事案である。

二  争いのない事実等

1  原告らは、奈良県の住民である。

本件派遣の当時、①被告杉村は奈良県立香芝高等学校校長で本件派遣団の団長、②被告松宮は奈良県教育委員会事務局教職員課課長補佐で本件派遣団の副団長、③被告村上は同課主査、④被告中辻は奈良県立耳成高等学校事務長、⑤被告亀井は奈良県立桜井商業高等学校教頭であった。

2  本件派遣は、平成八年度奈良県教職員中国教育事情視察派遣として、平成八年八月二九日から同年九月七日までの一〇日間、左記の日程で実施された。これは、奈良県において、昭和五四年以降ほぼ毎年行われている中国教育事情視察派遣の第一七次に当たるものである。その視察・見学先の概要は、左記のとおりである。参加者は、県立の高等学校教職員一一名、市立の高等学校教職員二名、市町村立の小・中学校教職員七名、県立学校事務職員一名、奈良県教育委員会事務局職員二名、天理市教育委員会事務局職員一名の合計二四名であり、うち市立の小・中学校教職員五名については市費負担とされた。

(一) 八月二九日

広州美術館、鎮海楼(博物館)

(二) 八月三〇日

深大学、錦繍中華(中国民族文化村)

(三) 八月三一日

龍門、華亭寺

(四) 九月一日

石林、昆明市内

(五) 九月二日

雲南民族学院、圓通禅寺、昆明国際貿易中心(見本市会場)

(六) 九月三日

西安外国語学校、慈恩寺大雁塔、陜西省歴史博物館、安寧門、陜西省教育庁

(七) 九月四日

西安体育学院、西安中学校、兵馬俑坑博物館、華清池

(八) 九月五日

茂陵及び乾陵

(九) 九月六日

北京大学分校、万里の長城、天安門広場

(一〇) 九月七日

故宮博物院

3  平成八年八月一日、本件派遣の旅費として、各参加者に対し各二〇万円が一般会計予算中の款・教育費、項・教育総務費、目・教職員人事管理費、事業・教職員研修及び派遣事業、節・旅費から概算払として支出された。

4  原告らは、平成九年五月二一日、奈良県監査委員に対し、本件派遣のための公費支出について地方自治法二四二条一項に基づく監査請求をしたところ、監査委員は、同年七月一八日付けで右請求を理由のないものと認めて棄却する旨原告らに通知した。

三  争点

本件派遣の旅費等の支出は違法か

四  争点に対する各当事者の主張

(原告らの主張)

1 本件派遣の目的、内容について

本件派遣は、次の諸点からすれば、視察に名を借りた観光旅行である。

(一) 一七回も連続して、中国の教育事情視察と称して同じコースで行われている。

(二) 一〇日間の日程の内、学校訪問をしているのは五か所、四回で、うち、小学校、中学校とも各一校だけであり、一か所の平均見学時間は約一時間ほどと推察される。

(三) 食事は毎日のように有名レストランで会食し、ほとんどの参加者は、本件派遣直後の参加者の感想をまとめた「訪中所感」に観光と食べ物に関する記載をしている。

2 参加者の選考について

参加者の選考の手続に関する文書が存在せず、選考手続が不透明で、参加者自身なぜ自分が選ばれたのか分からない状態であり、公正な選考方法が行われたものとはいえない。

3 旅行費用について

(一) 本件派遣の旅行費用(見積額一人当たり三三万円)は、一〇日間の中国旅行としては、高すぎ、一般的には二〇万円もあれば足りる。

(二)本件派遣の旅行費用のうち、二〇万円が公費で、残りは自己負担とされているが、本件派遣が観光旅行ではなく、公務であるというのであれば、全額を公費負担とすべきである。

(被告ら及び被告ら参加人の主張)

1 本件派遣の目的、内容について

(一) 普通地方公共団体は、その所掌する広範な公務の目的を達成するため、その裁量により職員を広く国内外の各地に派遣し、その資質の向上を図り、公務の円滑な執行の実現に資するよう務めている。

そして、本件派遣は、教職員に中国の諸都市の学校等の教育関係機関の訪問等による教育事情並びに自然、歴史、文化ないし社会事情等の視察をさせることにより、その資質の向上と国際的視野の醸成をし、教育に対する自覚と誇りを高め、さらには日中友好関係の進展をはかる等の目的に基づいて実施されたものであった。

(二) 本件教育事情視察派遣は、自然、歴史、文化、文物、社会経済生活事情のほか、経済特区における大学教育や小数民族教育、体育学院、中高一貫教育などの視察、外国語教育重視の民営小学校の視察、奈良県教育委員会と友好関係にある教育庁への表敬訪問、同庁教育関係者との懇談、意見交換などを目的として、現地の教育関係者や、生徒・学生との友好的な交流をするなど、中国における教育現場の視察を中心として企画し、実施されたものである。

参加者は、三回の事前研修を実施した上、本件派遣に参加し、本件視察により、中国の様々な教育事情のほか、中国の歴史、文化、社会経済生活の情勢全般についても見識と理解を深めることができ、本件派遣後、各自がそれぞれの立場で本件派遣の成果を生かしている。

2 参加者の選考について

本件派遣の派遣候補者の選考に関する資格は、奈良県公立小・中学校及び県立学校の教職員並びに奈良県教育委員会事務局職員であることであり、選考の条件は、①年齢が概ね四〇歳以上五五歳以下で教職等の経験が一〇年以上の者、②勤務成績が良好でありかつ健康で海外における生活及び団体行動に適応できる者、③中国語の学習等、日中の文化交流に意欲をもつ者である。

また、校種別員数としては、小・中学校六人、県立学校一一人、事務職員一人、奈良県教育委員会事務局職員二名と定められたものである。

具体的には、小・中学校の教職員については、奈良県教育委員会が、年度ごとの派遣実績や他の派遣事業、研修等とのバランスを考えながら特定した市町村教育委員会に対して、選考を依頼し、各市町村においてそれまでの教育実績に基づき客観的な資料による選考が行われている。右選考の依頼に当たっては、各市町村教育委員会に対して、本件派遣の趣旨目的を伝えるとともに、学校長の推薦等をふまえて厳正公正に選考するよう指導している。

県立学校の教職員については、教育委員会の担当者が、学校訪問、ヒヤリング等を重ねて実施する中で、研修等への学校長への推薦を求めるなどして候補者に関する資料を収集し、教科、年齢構成等の種々の観点から総合的に判断して選考を行っている。

3 旅行費用について

(一) 本件派遣は、旅行業者が営業のために募集する出来合いのパッケージツアーとは本質的に異なり、公式の視察訪問として、本件派遣のために必要な旅程を個別に組むとともに、交通機関、宿舎ホテル等についても安全確実性などに配慮する必要がある等の事情があることを考慮すれば、本件派遣に関する旅費の額は、社会常識の範囲内である。

(二) 本件派遣団の一人当たりの派遣費用約三七万円のうち公費負担が二〇万円とされているのは、できる限り多くの教職員に本事業への参加の機会を与え、本県教育の振興を図るため、毎年参加者を二〇人とする一方、予算の制約から参加者の理解を得て、旅費の一部を自己負担としているものである。

五  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第三  争点に対する判断

一  本件派遣の目的、内容について

1  証拠(括弧内に記載のもの)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 奈良県教育委員会では、中国の教育・文化及び社会事情等を視察することによって、国際的視野に立った識見及び教職に対する誇りと自覚を高めさせるとともに、日中友好の進展と本県教育の振興を図るという目的で、昭和五四年以降現在に至るまで、平成元年を除く毎年「奈良県教職員中国教育事情視察派遣」という名称で、奈良県の教職員を中国に派遣している。本件派遣は、その第一七次に当たるものである(甲一、二)。

(二) 本件派遣団の参加者は、平成八年七月二日、同月二九日、同年八月二二日と三回にわたり、本件派遣の事前研修のために集まり、各参加者の事務分担を決めたり、中国語会話の基礎を学んだり、昨年度の視察のビデオを見ながら、昨年度の視察状況についての説明を聞いた(丙一の三頁)。

右事前研修の際、参加者から体育大学の視察をしたい旨の要望が出されたため、視察先に西安体育学院を加えることになった(被告松宮本人六丁表)。

(三) 本件派遣の旅行の手配等は、民間の旅行業者である日中旅行社に委ねられ、本件派遣には同社の添乗員一名が同行したほか、各所で現地ガイド(少なくとも合計五名)がついた。

教育委員会教職員課は、教育委員会や参加者の希望等を旅行業者に伝え、視察先への手配等を旅行業者に依頼したほか、陜西省教育庁へ訪問の依頼をした(被告松宮本人六丁表裏、一七丁表)。

(四) 本件派遣の日程、視察・見学先の概要等は、前記のとおりであり、本件派遣団は、学校等の教育機関のほか、博物館等の文化施設、史跡、自然の景勝地、市場等の経済的施設を視察・見学した。昆明は、第一七次の本件派遣で初めて視察先として加えられた都市である(甲一、被告松宮本人一二丁表裏)。なお、本件派遣の三日目は土曜日、四日目は日曜日で、中国の学校、行政機関等は完全週休二日制のため、これらの施設の視察はできなかった(被告松宮本人一二丁表)。これらのうち、中国の教育事情視察に直接関連した視察先における視察状況の詳細は、次のとおりである(丙一、二九、三〇、検丙一ないし四四)。

(1) 二日目・八月三〇日(金)

本件派遣団は、約二時間にわたって、深大学を視察した。

本件派遣団は、同大学の外事処(国際科)副主任から、同大学の概要について説明を受け、大学入試制度、学期の区分、就職状況、日本との交流状況等について質問したり、図書館施設を見学した。同大学は、夏休み中であったため、学生と直接交流する機会はなかったが、参加者の一部は、学生等が追試験や補充授業を受けている様子を見学した(証人井岡四丁表裏、被告松宮本人一〇丁表ないし一一丁表)。

(2) 五日目・九月二日(月)

本件派遣団は、約二時間三〇分にわたって、雲南民族学院(大学)を視察した。

同学院は、学生の約九七パーセントが少数民族という特色のある大学であり、本件派遣団は、同学院関係者から、学院の概要や少数民族教育の現状、課題等について説明を受け、卒業後の進路、学費、入試制度等について質問した。また、学生らとの懇談を行い、将来の志望や日本に対する印象等について質問した。

同学院は、新学期の初日で授業等は行われておらず、教材・教科書販売風景や学内の学生生活等を見学するにとどまった(証人井岡四丁裏ないし五丁裏、証人冬木五丁裏ないし六丁表、被告松宮本人一三丁裏ないし一四丁裏)。

また、同学院内の民族博物館において、博物館司書から説明を受け、日本の農漁業等のルーツとも認められる農漁業の道具等を見学した(証人井岡四丁裏ないし五丁表)。

(3) 六日目・九月三日(火)

本件派遣団は、約二時間にわたって、西安外国語学校(小学校)を視察した。

同校は、民営の外国語教育に特色のある全寮制の小学校であり、本件派遣団は、同校の職員から、同校では小学校一年生で英語学習を開始し、小学校六年生の卒業時までに単語三〇〇〇語の履修、日常会話ができ、簡単な手紙が書けるようになることを目標として英語教育を行っていることのほか、同校の教育課程、道徳教育等の状況、寮生活の状況、不登校・不適応生徒に対する指導のあり方等の説明を受け、教育方針、教育内容、先生の勤務条件等について質問した。また、授業を参観し、寄宿寮及び施設を見学した(証人井岡六丁表ないし七丁表、証人冬木二丁裏ないし三丁裏、被告松宮本人一五丁表ないし一六丁表)。

その後、本件派遣団は、約一時間にわたり、奈良県教育委員会と友好提携をしている陜西省教育庁を表敬訪問した。

本件派遣団は、同庁の幹部職員から、同省の教育事情、教育改革等について説明を受け、受験、人権教育、道徳教育、教育予算、人件費等について質問した。その後、飲食店において、お返しの意味で同庁の幹部職員を招き、参加者の費用負担で会食をした(証人井岡七丁表裏、被告松宮本人一六丁裏ないし一七丁裏)。

(4) 七日目・九月四日(水)

本件派遣団は、約一時間にわたり、中国の六大体育学院の一つである西安体育学院(大学)を視察した。

本件派遣団は、副教授・教務所所長(教頭)から、教育課程、教育目標、実技指導、運動生理学の実態等について説明を受け、体育大学の数、存在意義、学生の卒業後の進路、日本との交流等について質問した。また、学内の教育施設を見学した(証人井岡七丁裏ないし八丁表、被告松宮本人一七丁裏ないし一八丁裏)。

その後、本件派遣団は、約二時間にわたり、中高一貫教育で重点学校(進学校)である西安中学を視察した。

本件派遣団は、授業参観や、教育施設設備の見学をしたり、同校の教務主任から、同校の教育課程、教育目標等について説明を受け、教員の研修、教育目標、中高一貫教育、進学率、愛国教育、国からの学校教育への干渉等について質問した。

また、中学生と直接質疑応答する機会もあり、派遣参加者から日本に対する印象、将来の志望、学習内容等について質問するなどした(証人井岡八丁表ないし九丁裏、証人冬木三丁裏ないし五丁表、被告松宮本人一八丁裏ないし二〇丁表)。

(5) 九日目・九月六日(金)

本件派遣団は、約五〇分にわたり、北京大学校分校を見学した。同校も授業等は行われておらず、健康診断や講座登録などが行われていた。

その後、同校の日本語専攻の学生八名と共に万里の長城を見学し、併せて右学生らとの交流をした(証人冬木五丁表裏、被告松宮本人二〇丁裏ないし二一丁表)。

(五) 本件派遣の後、他の教職員や生徒に視察の結果を報告したり、視察の結果を参考にして、外国語教育や情報教育のカリキュラムを改善するなどした参加者もあり(丙一六ないし二〇、証人井岡一〇丁表裏、証人冬木七丁表ないし八丁表)、また、帰国後、北京大学分校の学生との交流を続けている参加者もいる(丙二二ないし二四の2)。

(六) 本件派遣後、参加者が感想を記録した旅行記(丙一)には、本件派遣団が前述した学校等の教育関係施設を訪問し、教育関係者らから教育事情等について説明を受けたり、学生・生徒らと懇談するなどして交流をしたり、教育関係施設を見学したりするなどして中国の教育事情を視察したことの様子が具体的に記載されている。

参加者から旅行命令権者である各学校長や教育委員会教職員課長宛てに復命書(丙二ないし一四)が提出されているが、当初提出された復命書は一枚目のみで視察内容について具体的な記載等はなく、二枚目以降は後日補充されたものである(証人冬木一六丁裏ないし一七丁裏、被告松宮本人二八丁表)。

二1 地方教育行政の組織及び運営に関する法律は、教育の政治的中立と教育行政の安定の確保という見地から、地方公共団体に教育委員会を設置し(二条)、教育委員会に、学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止(二三条一号)、教育財産の管理(同条二号)、教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事(同条三号)、校長、教頭その他の教育関係職員の研修(同条八号)などを含む地方公共団体が処理する教育に関する事務の主要なものを管理、執行する広範な権限を与えているから、教育委員会は、その広い裁量により、研修等のため教職員を国内や海外に派遣することができると解される。そうすると、右教育委員会の決定等に基づく公金支出が違法となるのは、右処分等が合理性を欠き、裁量の範囲を逸脱した違法がある場合であるということができる。

2 そこで、以下、本件派遣に右のような違法となるべき点があるか否かを検討する。前記認定によれば、本件派遣は、教職員を中国に派遣し、中国の教育・文化及び社会事情等を視察させることによって、教職員の国際的視野に立った識見を高めるなどの目的で行われていることが認められる。そして、公務員については、勤務能率の発揮及び増進のため研修の必要があり(地方公務員法三九条)、特に教育公務員については、教育の本質が人格の完成をめざすものであって、教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めることが求められているのであるから(教育公務員特例法一九条一項)、右目的は正当性があるということができる。

そして、前記認定によれば、本件派遣の日程には、右目的と直接関連性を有する中国の学校等の教育機関の視察が含まれているところ、原告らが指摘するように、教育現場の視察をした時間について全日程との比較からしていささか少ないようなうらみはあるものの、その他の視察・見学先も中国の文化、歴史、社会事情等を知る上では有益な所であるということができ、本件派遣が専ら遊興を目的とした観光的なものであるとはいえず、参加者も各視察先において積極的に質問するなど真摯に視察に取り組み、視察後において、各人の視察の成果が教育現場に生かされているようにうかがえる。

原告らは、一七回にわたり同一のコースで行われていうことを云々するが、体験する参加者が異なる以上、視察・見学先がほぼ同一であってもこれを違法とすることはできない。

以上の検討によれば、本件派遣についての公金支出は、その目的、内容の点からして違法であるとは認め難い。

三  参加者の選考について

1  証拠(括弧内に記載のもの)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件派遣の派遣候補者の選考については、平成八年度奈良県教職員中国教育事情視察派遣実施要項に規定されており、派遣候補者の資格は、奈良県公立小・中学校及び県立学校の教職員並びに奈良県教育委員会事務局職員であることとされ、選考の条件は、①年齢が概ね四〇歳以上五五歳以下で教職等の経験が一〇年以上の者、②勤務成績が良好であり、かつ健康で、海外における生活及び団体行動に適応できる者、③中国語の学習等、日中の文化交流に意欲をもつ者である。

派遣団の校種別配当人数は、平成八年度当初案では、小・中学校六人、県立学校一一人、事務職員一人、奈良県教育委員会事務局職員二人の合計二〇名と定められ、派遣候補者の推薦は、文部省海外派遣(短期派遣)候補者の推薦に準じている(甲二)。

(二) 具体的な選考は、県立学校の教職員については、奈良県教育委員会が、学校長からの意見聴取等の結果や、他の研修等への参加状況、担当教科や年齢構成等を総合的に考慮して、参加者を決定し、市立学校の教職員については、過去の本件派遣への参加状況等をふまえて市町村教育委員会に推薦を依頼し、各市町村教育委員会からの推薦に基づき、奈良県教育委員会において参加者を決定している(被告松宮本人三丁裏ないし五丁表)。

また、これらの選考に当たって参加希望者を募ることはなされておらず、内定直前に参加予定者の意向を聴取するにとどまっている(証人井岡一一丁裏、被告松宮本人二五丁表)。

平成八年度における選考については、市立学校の教職員については、市立学校の校長の推薦を経て行われた各市の教育委員会からの推薦に基づいて参加者が決定され、右の推薦文書も存在しているが(甲三)、県立学校の教職員については学校長の推薦文書等は存在していない。

2  前述のとおり、教育委員会及び教育長は教職員の研修等の実施について、広範な裁量を有していると解されるところであり、本件全証拠によっても、参加者の選考において、合理性を欠くような瑕疵があったとは認め難い。

なるほど、前記認定によれば、県教職員の参加者の選考の過程を示す文書等は存在していないが、人事に関する各種事情を考慮して総合的に教職員の研修等の必要が決定されていることからすると、これをもって恣意的な選考が行われたとみることはできない。

四  旅行費用について

1  証拠(括弧内に記載のもの)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件派遣に要した費用は合計約三九万円(一人当たり)であり、その内訳は次のとおりである。

(1) 本件派遣の旅行費用(一人当たり)

① 国際航空運賃(エコノミークラス) 一〇万九五〇〇円

② 中国国内航空運賃

四万九五〇〇円

③ 中国国内交通費

二万九二〇〇円

④ 中国国内滞在費

宿泊費 五万八〇〇〇円

食事及び特別料理 四万七〇〇〇円

視察・参観・入場に伴う費用

一万〇五〇〇円

中国内空港税 三三〇〇円

⑤ 中国側現地通訳・案内等サービス料 九〇〇〇円

⑥ 添乗員派遣費用

一万四〇〇〇円

合計三三万円(甲五の三頁)。(ただし、証人冬木の証言によれば、実際の旅行費用の額は三七ないし三八万円である(一四丁表))

(2) その他の費用

① ビデオ・写真・アルバム代

約四八万円

② 「中国教育事情」と題する旅行記の製本代 約一八万円

これらに視察先への手土産代、飲み代等を加えて、一人あたり約六万円(証人井岡一三丁表、証人冬木一二丁裏ないし一三丁裏)

(二) 本件支出命令は、鉄道賃、航空運賃、現地交通費については実費で、日当及び宿泊料、支度料、旅行雑費については定額で、合計約三七万円ないし四〇万円を各参加者に支給するものとされている。しかし、参加者らには、権利放棄分を除いた各二〇万円が支給された(甲五)。

(三) 旅行費用については、全額公費負担となるよう予算要求をしたが、右要求が通らなかったので、参加者二〇名程度の規模で実施するため二〇万円を除く部分については、参加者の了承を得てその自己負担としている(被告松宮本人二二丁表裏)。

(四) 民間旅行業者の広告によれば、中国の桂林、広州の二都市を訪問先とする三泊四日の旅行費用は一人当たり九万円から一三万円程度である(甲六)。

2  本件派遣は、旅行業者が主催して行う一般観光客向けのツアー旅行ではなく、教育委員会側の注文に応じて、学校等の教育機関を視察先に組み入れて設定されたものであることからすると、本件旅行費用が、著しく高額であるとは認められない。

また、原告らは、旅費の一部を自己負担した点の不当性を主張するが、旅費等の具体的請求権については、これを放棄することも許されると解される。

五  右に認定したところによれば、奈良県教育委員会がした本件派遣の決定はその合理的な裁量の範囲内にあり、これを逸脱した瑕疵があると認めることはできないから、原告らの主張は採用しない。

六  結語

以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官前川鉄郎 裁判官川谷道郎 裁判官田口治美)

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